症状別 漢方の教え

KAMPO KNOWLEDGE
更新日:2019/12/27 (金)

附子(ぶし)

狂言の「ぶす」

附子は猛毒で知られている植物ですね。

生薬名では「ぶし」ですが、毒としては「ぶす」とも読まれ、狂言の演目としても登場します。聞いたことがある話ではないでしょうか?

「附子(ぶす)」

或る家の主人が、留守の間に貴重な砂糖を弟子達に食べられないように、桶の中身は猛毒の附子で、風下にいるだけで死んでしまう、と嘘を言って出かけます。弟子は怖いもの見たさで覗き、それが砂糖と知ると全て舐めてしまった上に、主人の大事にしている掛け軸と茶碗をわざと壊します。そして主人が帰ってくると、「大事なものを壊してしまったお詫びに死のうと思って附子を食べつくしたのに死ねません」と、うまい言い訳をする話。

この話にあるように風下にいるだけで死ぬほどではないですが、附子は毒性がとても強く、そのまま口にすると神経を麻痺させて、呼吸困難、心停止となり死に至るほどです。

ちなみに、附子の毒で顔の神経が麻痺すると、無表情のおかしな顔になります。それを指して「ぶす」と言っていたのが美人の対義語、いわゆるブスの語源となったそうです。表情豊かであることは、美人の大事な要素のようです。

生薬としての附子

キンポウゲ科のカラトリカブトの根を使います。正確には、茎に直結している母根は「烏頭(うず)」、そこから伸びた子根が「附子」です。毒は根だけでなく茎や花にも含まれます。

漢方に使われる附子は、毒性を抑える修治(加工)がされているため、心配は要りません。ただ、附子は作用の鋭い下薬です。体質的に合わなければ副作用が出やすくなります。妊婦さんにも禁忌です。

附子の性質

・大辛:辛味は体を温め、発散に働く。

・大熱:大きなエネルギーを持ち、温める力が強い。

体を温める働きが非常に強く、体の各部をつないで全体を統一している経絡を通じさせ、エネルギーの循環を良くします。体を活発化させるエンジンのようなものです。強心、散寒、鎮痛、利尿に働きます。

代謝が悪く、自力で体を温める力もないような人には重要な生薬です。逆に、体格が良くて暑がりな方は、動悸や頭痛、血圧上昇などを引き起こすので使ってはいけません。

附子を使う漢方薬

麻黄附子細辛湯:風邪を引いても熱を出す力のない高齢者などに使う風邪薬

桂枝加朮附湯:関節痛など冷えると痛みが出やすい人に

八味地黄丸:冷えて疲れやすく、足腰のだるさ、しびれ、夜間尿などがある人に

いずれも年を重ねていくほど、使う割合が増えそうな漢方薬です。